思わず胸を打たれ、いつの間にか話しかけている自分に気がつく。これが高山の花だ。胸をはって青空を見上げていたりする。通りすぎようとした緑の葉陰をのぞきこんでみると、ハッとする淡紅色の花がうつむいていたりする。なぜこんなに心にひびくのだろう。
長い冬の孤独をたえぬいた顔だ。深い雪の下で自分を見つめてきた顔だ。
山はいついっても違った表情で迎えてくれる。
こけもも、といってもコケの種類ではない。ツツジ科の植物。高くても二十センチくらいにしかならない低い木である。葉は円形で、つやつやしている。
陽に輝く緑の葉かげからチラッと淡紅色が見える。七月に小さな鐘形の花をつける。気おつけていないとつい見過ごしてしまう。緑の葉かげに住む気品高い高山の麗人である。九月に真赤な実をつける。葉かげにかくれてうっかりすると見落としてしまう。山を登ってこけももを見つけると、その清そなたたずまいに、ほっとため息をつきたくなる。ほほえみが自然に浮かんでくる。実はジャムや果実酒になる。疲労回復にもいい。葉も薬になる。じん臓、リューマチ、ぼうこうカタルにいい。
森からの手紙から 1983 . 7. 池宮 健一