山魚いわなの知恵
セキレイという鳥がいる。
こんなことをいう。
「セキレイが水辺遠く巣くう年は洪水あり」
これはに類したことわざは沢山ある。鳥にしても動物にしても昆虫や魚にしても、非常に感覚がすぐれている。人間は足もとにも及ばない。昔から動物の動きをよく見ていて、気象や災害を事前に知る方法がとられていた。動物の知恵を利用し人間の知恵だ。
山で大雨が降るとテッポウ水が起こることがある。山の川に洪水だ。支流の多い川は特にテッポウ水が出やすいから大雨のあとは注意が肝心。
山魚の王者いわな(サケ科)は敏感な魚だ。人影を見てもすぐにかくれてしまう。
このいわなが大雨をどうして知るのか、大雨の前になると砂や小石をのみこむ。大雨が降ると水嵩が増し、流れが早くなる。その防ぎょ対策だ。体重を重くてバランスをとりやすかするためだろう。
夜の山に虹がでた
「あっ、虹」
真夏の空に大きく浮び上る虹。美しい七色の階段を上ってそのまま大空へ登っていけそうだ。
虹は天国と地上を結ぶかけ橋ともいわれた。ギリシャ神話やヨーロッパの神話にもでてくる。詩や歌にも沢山でてくる。夢の国へのかけ橋だ。それが最近都会地であまり見られなくなった。空気が汚れ、天国が遠くなったのかもしれない。
夜の山道で虹を見た、なんていったら笑う人がいるかもしれない。ところが‥‥‥
山国では夜山に虹がでる。
きつねは夜行性の動物だ。そのきつねが夜寝ているきじや山鳥をねらう。きじは飛ぶのは苦手だが、こちらも必死だ。全力を出してぱっと飛び上がる。夏乾燥している時など静電気を起こす。それが夜空に明るい弧を画く。山の夜をいろどるきじの虹である。
この道は私の道よ
山の笹やぶにわけ入る。そこにしゃがんで注意深く見廻してみる。はじめはわからないが、暗闇でもだんだんなれてくると回りが見えてくるのと同じように、だんだんと森の細かい笹やぶが見えてくる。
シッ静かに!笹と同じ背の高さになって森の音に耳を傾けることだ。
かすかに笹や草が傾いている。それが森の奥の方まで続いている。これがけもの道だ。
けもの道と一口にいってもうさぎの道、たぬきの道、きつねの道とみんな違う。それぞれ専用道路を持っている。
自分の巣からえさを探しに行く道なのだ。
地上ばかりではない。蝶にも道があるという。山国の遅い春から夏にかけて高原の花々はいっせいに咲き揃う。その花々を訪れる蝶の道。見上げる眞青な空に白い蝶の道が浮かび上って見えるようだ。
そういえば渡り鳥はそれこそ世界に自分の道を持っている。想像もつかない感覚だ。
1983、7 池宮 健一