くまは頭がいい。ささ(いね科)をくくって上手にわなを作る。それを森の草むらなどに仕掛けて、動物を追いこんでいくという。
くまは十一月から三月まで冬眠する。長い冬眠からさめると、近くにあるささの芽や葉を食べるという。ささでまず体力をつくる。さて‥‥‥というわけで、それから食料を探しにいくという。
ささは昔から人間の生活と深い関係がある。しかしひょっとしたらささの効用を最初に見ぬいたのはくまかもしれない。
動物は食べられるものと毒なものは本能的に見わける。じっと見ていると牛や馬もささを食べる。動物園のパンダも食べる。
「これは食べられる。あんな強い体力を支えるんだ。きっとからだにいいんだろう」
人間がそう思ったのも当然である。
北信の山や高原を歩くと、くまざさがおいしげっている。最初はささの葉をお皿に使った。ささのこうばしい香りが一層味をよくする。はしを使わずに食べられる。ささの葉は通気性もあるという。それは防腐的な役目を果す。葉の上にご飯だけだったのが、山菜をそえた。それがささずしになった。
ささずしの作り方には二種類ある。一つはささの葉をお皿にしてその上へご飯と具を入れ、おしずしにする方法。山里の知恵である。
「ささずしを一升頼むよ」
何かおめでたい時にはささずしを作る。山里のならわしの一つでもある。
ささは五十年に一度花を咲かす。そして実をつけると枯れてしまう。この実はデンプンが多い。こうばしくておいしい。昔から飢饉の時の保存食として貴重だった。ささの工夫は絶えない。ささ餅、ささアメ、ささだんご。鮮魚をささでまいて焼く。葉をきざんだささ茶はすぐれた健康茶でもある。
1983、7 池宮 健一