父の討死、最後の場
「伍助、千賀丸を頼む」
弘数は最後の力をふりしぼって伍助の手をとった。
「殿!しっかり‥‥‥」
その時まだ二才の千賀丸はただ茫然としていた。父の首がガックリと前へたれる。伍助に抱かれた千賀丸の瞳が急にふくれ上がり、一筋の涙が頬をつたった。
ーー多分こんな場面になるのでしょう。死んだ弘数というのは九州尾形の領主で、ある戦いに敗れ、城を枕に討死したのです。千賀丸は成人して尾形周馬となり、”地雷也“ と名のりました。地雷也は自分で「天下の義賊になる」といい、天下に名を轟せた妖術使いです。その地雷也の山寨跡というのが黒姫山の中腹にあります。
達人になったが‥‥
さて主人の遺言通り伍助は二歳の千賀丸を連れ、信州にある自分の生家で彼を育てます。千賀丸は成人し、尾形家の再興と父の仇討ちを心に秘め、妙高の山頂に住んでいた素仙人から妖術を学びその達人となりました。
その後黒姫山に住んでいた大蛇を退治したり、山賊の首領 “夜叉五郎” を 退治したりしました。
そしてこういいきったのです。
「わしは天下の義賊になる。不義をこらしめ、人々に善道をすすめ、貧乏人を助けるのだ」
「そして家を再興し、必ず父の仇討ちをとげる」
忘れたお家再興
ここまではまことにカッコよかったのだけど、山賊の首領を退治したのがどうやら分れ道になってしまったようです。
いつの間にかお家再興、父の仇討ちを忘れてしまいました。自分が退治した山賊の首領、夜叉五郎にとって変わり、今度は自分がその親玉になってしまったとか。
やっぱり人間はあんまりカッコよすぎちゃいけないんですよね‥‥‥。
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ヒキオコシ
たおれた人を引起すほどの力をもっているといわれるところからヒキオコシという名前がついた。ヒキオコシとは延命草(シソ科)のこと。読んで字のごとく、命を延ばす草ともいう。