ぼーしやJAM工房

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桑の実のジャム

ずいぶん前に沖縄の小さな島に家を借りて住んでいたことがあります。その家の庭に大きな桑の木がありました。昔、蚕を飼っていたのだそうです。
また、この島には人間の数の数十倍の数の山羊が住んでいました。住んでいたと言うのは、元は持ち主がいたのですけれども、放し飼いにしていたつもりが野生化してしまったのです。山羊は、島中を好き勝手に移動していました。なんて言ったって小さな島で天敵がいなかったので、繁殖をしてすごい数になったんです。
その山羊も桑の葉が好きです。山羊を飼育するために植えたのかも知れないですね。一石二鳥かな?

桑は実を付けました。小指の先ぐらいでしょうか? 熟すととても甘いのです。友人が来て僕に言いました。
「ねえ、桑の実のパイを食べようよ?」
「おっ。いいね。パイを食べられるんだね。僕は何をすればいいの?」
「木に登って、実を集めてよ」
僕は友人の子供と桑の実を摘みました。木はとても大きいのです。猿のように枝の上を渡って周りたくさんの実を集めることができました。
友人家族と他の友人も招いて桑の実パイを桑の木の下で楽しみました。ふだん海に潜ったり、釣りをしたり海へ行って食料を得る事はしていましたが、実を摘んで食べるのはあまり経験がありませんでした。この作業はとても楽しかったんです。残った桑の実はジャムにしたのは言うまでもありません。

その夜は月の出ない新月でした。月のカレンダーです。新月の夜の引き潮はとても遠くまで海が下がって行きます。僕はその夜一人で、引き潮の始まった時間が来るのを待ってタコ取りに出かけました。ヤス(モリ)と袋それからカンテラを持って地下足袋を履いて出かけます。
暗い夜ですが、夜空一面の星は明るいばかりでした。暗い海と星が無数に輝く空の間に 隣の島影が黒く見えます。この島はサンゴ礁の上にできています。島のはずれのサンゴ礁の切れる所は砦のように壁があり、海の中では崖になっていて 外からの波はここで砕けてしまいます。だから波はサンゴ礁の中に入ってきません、そしてサメの様な大きな魚も入ってきません。バリアリーフって言う事ですね。
島の海岸からサンゴ礁の端までは相当の距離があります。そこまでのかなりのサンゴ礁や岩の部分が、引き潮で海から出て来て現れるので 泳がなくても歩いて行けるんです。
引いてしまった海のあとを僕はカンテラで足場を照らしながら歩きます。しばらく歩いて島からかなり離れると、島はもともと小さな島なので、海の中に沈み込みそうなほど背の低い固まりになっていました。
気がつくと、僕の目の前は星空、右側も星空、左側も星空、後ろも星空、上も星空になっています。とても不思議な気分になりました。僕は地球と言う星の表面に立っているのです。まるで月に降り立った宇宙飛行士みたいに。
海は暗く平らです。僕を囲むのは空間と星、星、星でした。

8000メートル級の山に登った友人が その感じを僕に話してくれたことがあります。
「地球から宇宙へつき出たような気分だった。」
遠くで波が岩にぶつかって砕ける音が聞こえてきます、それ以外に音はありません。無数の光の中に動く光がありました。人工衛星です。僕は この空間でたった1人だと思いました。

僕はカンテラを下げてタコを探しています。ちょっと低い部分に水が溜まって残り、そこにはまあ何とも、“ありとあらゆる形”をした、“こんなのもあるのかと思うような色と模様”をした生物達を見ることができました。
僕は、そんな水たまりの岩の影を覗いて行きます。タコがいるとちょっと目印があるんです。それを見ているわけです。
水たまりの中で、小さな魚がいました。その横でシマシマ模様のウミヘビがいます、タカラ貝が殻の中から身体を出して殻を包みきらきら光っています。
“誰かが僕を見ている”
と言う感覚がありました。水の中からじっと“それ”は、僕を見ているんです。
「なんか不格好な形をしたきれいなデザインをし忘れた奴がいる」
そんな事を言っているような気がしました。彼らは突然現れた変な生き物を興味津々で見ているのです。僕が興味津々で水の中を見ている様になんです。僕は 多くの多くのいろいろの形をした、いろいろの色をした、いろいろの模様をした生き物に見られているのです。僕は海に関わりここに住む、いろいろの生き物の1つでした。

ある日、大きな台風が来て、それは強烈な風が吹きました。そして海の潮を島中に振りかけちゃったんです。すると桑の木は葉っぱを全て落としてしまいました。
「これは、桑の木は枯れてしまったかな?」
「なあに、大丈夫だよ、心配ないよ」
友人にそう言われはしましたが、どんなものかと桑の木の様子を気にしていました。
しばらくすると,緑の小さな葉が再び出てきました。そしてそれからさらに花をつけ、また実がなったんです。何だか童話みたいでした。
友人が言いました。
「もう一度桑の実のパイを焼こうか?」
「いいね。じゃあ、桑の実摘みだね」

そんなわけで、桑の実ジャムを作ると 海を想い出します。僕が初めてジャムを作ったと言う事もあります。そして地球の上で一緒に、一緒の時間に生きてる僕と違う形や色をした、僕より上手に自分を飾り立てた彼らの事も。


クワ科  クワ属
原産は中国北部から朝鮮半島

日本の自生種はやまくわ。
カロリー   43kcal
炭水化物   10g
食物繊維   1.7g
脂質     0.4g
糖質     8g
たんぱく質  1.4g
ビタミンC  36.4㎎
ビタミンB6 0.1㎎
カルシウム  39㎎
カリウム   194㎎
ナトリウム  10㎎
鉄      1.9㎎
マグネシウム 18㎎

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