大石早生というプラムがあります。わりに小型のプラムで、中が赤くてジュース分がとても多く美味しいプラムです。このプラムを紹介してくれたのは隣町の八百屋さんでした。そんな風にプラムとの関係が始まるとプラムもいろいろ種類がある事に気がつきました。
そんな中で山下さんに見せられたソルダム・プラムは僕たちとぴったり気が合ったんですね。見た目、酸味。まあ見た目はジャムにしてしまうので変わってしまいますが、気持ちの良い姿をしています。
ソルダムのジャムを作っている時に マギ—が工房へ来ました。
「プラム食べたい」
二つに割ったソルダムの実を彼女は見て
「実の中に星があるみたいだね」
そう言われてみれば、二つに割ったソルダムの実の割った部分は真っ赤なのですが、まるで夜空に見える星や天の川のようでした。どれもこれも真っ赤な夜の空の星たちです。これ、なかなか想像しにくいかも知れませんね。夜の星空を切り取って それをプラムに張り付けた、そんな感じと言ったら分かりやすいでしょうか?
「そう言えば、これは天の川かな」
「プラムの中には宇宙があるんだね」
ソルダム・プラムの中には宇宙がある、なんてすごい表現でしょう。
味も形もさることながら、このマギーの表現ですっかり僕たちはソルダムが好きになりました。
星空には思い出があります。もちろんほとんどの人がロマンティクな思い出があると思いますが。
友人の山小屋の雪を下ろしに3月の笹ヶ峰へ5人ほどで歩いて登りました。地面から5メートルは積もったかと思うほどの雪です。山小屋は雪に埋もれていて、雪の原にポッコリと小山になっているのがそれでした。
日ごろ慣れた作業と言う事もあるのでしょうが、5人での作業は見る見るうちに進みます。屋根の上から両側へ雪を切り出し、切り下げて行きます。まあ、見事です。雪下ろしは順調に進み、屋根の高みから下の方に屋根の軒が見えて来ました。そして周りの雪と切り離します。これで雪解けの時に雪に引っ張り下げられて軒や屋根が壊されることはないわけです。小屋はちゃんと自分で立っていて 雪解けの雪のみち連れにされることはありません。
僕たちは翌日、山を下りて帰宅することにしていました。その日、残念ながら雲行きが怪しく、小雪が降り始めました。天候が荒れてくるかもしれないとの判断で、朝早めの出発です。出発して間もなく雪が本格的に降り始めました。葉の無いブナの木が雪原の上に黒いオブジェのように幾つも立っています。少しすると風が吹き始めそれがだんだん強くなってゆきます。雪が横殴りに僕たちの顔をたたきます。僕たちの視界は数メートルだったようです。前を見ていられないのです。ともかくすべてが雪色でした。
「小屋へもどろう」
誰かが叫びました。
「道がわかるか?」
「村へは無理だ。小屋へならなんとか」
僕たちは覚えているブナの木の形をたよりに あっという間に腰まで積もった雪を漕ぐように 小屋まで帰りつけました。長い時間がかかったように覚えています。
雪とブナの木と村人のこんな昔話があります。
ある時、3人の村人が雪の笹ヶ峰にウサギ猟に行きました。猟を終えた3人は村へと山を下りようとした頃 天気が急変して吹雪となったのです。3人は道を見失い仕方なく大きなブナの木の下で吹雪をやり過ごそうとしました。しかし、吹雪はやまず3人はブナの木の下で死んでしまいました。それを気の毒に思ったブナの木は上着を一つとって自分の枝の高い所にかけました。
吹雪の後、戻らない3人を心配して村人が笹ヶ峰へ探しに行きました。すると見慣れた上着がブナの木の枝にぶら下がっていました。そして3人の村人を見つけたのです。
僕たちは物語のようにはならず、ブナの木の案内で小屋に戻れたわけです。そんな事を想像できるほどブナの木の姿は神秘的です。
その夜は一転して、晴天でした。一面の星空、確か月も欠けた月があったように思います。
そこは、すべてが青い色の世界でした。雪原は薄青く近くの山へと続きます。遠い山はそれよりも濃い青ですくっと立っています。大空は星を隅から隅まで濃いところ薄い所とその青の中に輝かせていました。
「すごい星空だ」
「すべてが青色だね。」
「地球は青かったって、だれか言ったね」
「青は生命の色か」
僕は沖縄の夜の海で見た星空、あの時は生命に囲まれていました。ですがここには動いている物は僕達だけです。静かでした、何の音も聞こえないのです。気温はどのくらいだったんでしょう。マイナス30度くらいだったのか?青い氷の世界でした。
でも明日、太陽が出れば雪の穴の中に隠れていた冬眠できない動物たちが出てくるでしょう。春になれば寝ていた木々も草も、活動を再開します。ここは生命と生命の間の眠りの世界なのかもしれませんでした。
それぞれのソルダム・プラムがその中に見えないように持つ宇宙は、実は僕たちもみんなそれぞれが持っているのかも知れませんね。ソルダム・プラムのジャム作りは、思わぬイメージを持ちました。
ところで、国際村の知人がある時店に来てこんな事を言ってくれました。
「プラムのジャムは豚肉に合うよ」
「あの酸味がいいね」
一度 お試しください。
プラム
バラ科 スモモ属
ソルダム・プラムは19世紀アメリカでスモモからの品種改良でできる。
大石早生はアメリカから再輸入された、プラムからの更なる品種改良の結果生まれた。
生食100g中
カロリー 44kcal
たんぱく質 0.6㎎
脂質 1.0g
炭水化物 9.4g
灰分 0.4g
食物繊維 1.6g
ビタミンE 0.6㎎
ビタミンB1 0.02㎎
ビタミンB2 0.02㎎
ナイアシン 0.3㎎
ビタミンB6 0.04㎎
パントテン酸 0.14㎎
ビタミンC 4㎎
ナトリウム 1㎎
カリウム 150㎎
カルシウム 5㎎
マグネシウム 5㎎
リン 14㎎
鉄 0.2㎎