ぼーしやJAM工房

ぼーしやJAM工房からのご案内です。

黒フサスグリ

伊藤ブルーベリー農園の伊藤さんから電話がかかってきました。
「黒フサスグリ(ブラック・カーラント又はカシス)が、できているからとりに来ないか。俺たちは忙しくてとってられないんだよ」
ピタも行ってくれると言うので 僕と中村さん、永高君の4人で伊藤さんのブルーベリー畑へ向かいました。
黒フサスグリの畑は丘の高い所にありました。
「どうやったら都合よく摘めるかね?」
「ブルーシートを下にひいて 下にどんどん落とそうか?」
「傘を逆さまにして枝の下に置こうか?」
アイデアはいろいろ出ましたが、やって見るとなかなか上手く行きません。そこへ伊藤さんがやって来て魚釣りの魚籠の様なブルーベリー摘みのかごを貸してくれました。
「これが一番だな」
この竹のかごを腰に着けて、僕達は黒房スグリを摘み始めます。
黒く熟したものを選んで、房から外して摘んでゆきます。
「煮ていると青臭い植物の匂いがするから嫌い」
とだれか言っていました。梅雨の夜を歩いたときに嗅ぐ草の香りに似ているかもかも知れませんね。
確か、この匂いを香水に使っていると聞いたことがあります。

黒フサスグリの収穫の頃は、蛍のシーズンです。
この町を流れる鳥居川から取水して三水村に向かう芋川用水と言う名前の付いた用水路があります。水の少ない三水村にはコメ作りには無くてはならない水なわけですね、その水を運ぶための水路です。
開削は1603年とありますからこの用水路は400年以上の歴史を持っている事になります。コースがまた大変で山の斜面を削って通して30キロメートル程行きます。そのため大雨、土砂崩れなどがあると底が抜けてしまうのです。用水路の維持には長年大変な苦労をしてきたでしょうね。

この取り入れ口の村の辺りに大変な数の源氏蛍が出ました。鳥の数を数えるように数えた人の報告は、3千と言う数だったのです。専門家によれば発光していないものも入れればその3倍入るとのことでした。自然発生のホタルの数としては、考えられない程の数だと思います。自分の目で見ていてそれは、ちょっとこの世の物とは思えない景色でした。夜の闇が光の点滅の中にあるのでした。

その年用水路の改修工事の話が持ち上がりました。今までの土側溝まあ、壁は石積だったところも多いでしょうけれど。それを3面コンクリートにすることになったのです。3面コンクリートにすれば、昆虫は全滅です。
信濃町の住民のグループで声を上げ、蛍を残せるようにと用水組合と話し合いを持ちました。蛍の数が県内1,2を争う程多い事、減ってしまった夏の農村の景色、蛍は環境の指標となる昆虫などなどを説明した記憶があります。
決して簡単な話し合いでは無かったのですが、話し合いは良い方向に進みました。
蛍水路が確保され、用水路の底を土のままにする箇所を作るなどの、用水路として使用しながらのホタルなど昆虫の生息可能な妥協点の1つの形を探せたわけです。工事の跡にどのように保護をしたら良いのかと考えた跡が残っていて面白いです。

工事前にそこに住んでいた水生昆虫を用水路内の工事に関係ない安全地帯に移動させました。工事後に再生が直ぐに始まれるようにとの考えです。
しかし工事が終わって翌年、蛍どころか、カワニナ(ビンロジュ)も他の水性昆虫もほぼ全滅でした。わずかな昆虫がやたらに多いほかは何もいなかったんです。避難させたはずの昆虫も消えてしまっているのです。真っ暗な夏の夜がありました。それは、その翌年も、その翌年も。

僕たちは、他の地域から蛍を持ってくることはしないで ここのホタルが再び出てくるのを待ちました。それから数年して、数匹のホタルが用水路の上を飛び始めました。芋川用水のまわりの戸々の田用水がまだ土側溝であるのですが、そこにいた蛍が芋川用水路の蛍水路へ卵を産み始めたんです。そして十年あまり、かなりの数のホタルがまた芋川用水の上を飛び交うようになりました。今ではまたたくさんのホタルを見ることができます。

人の行為は自然に大きなダメージをよく与えますよね。蛍の様な人の暮らしの近い所に住むものは余計にです。でもちょっと工夫したり、種を残しておくと時間はかかっても再生するものだと学びました。

工房の窓辺に夜になると蛍がやって来て テカテカと青白い光を点滅しています。
「おっ。蛍の恩返しかな?」
などと思ったりしましたが、
「何のこと?」
軽くあしらわれます。
ともかく夏の夜に 蛍は一味足してくれますよね。

黒フサスグリの4方に伸びた枝をかき分けながら、僕達は実を摘みます。ピタはぶどう摘みなどいろいろ手伝ってくれているので、収穫作業は上手です。   伊藤さんが10時の休みに持ってきてくれました。そして、缶ジュースを飲みながら、今年のホタルの出具合などを話してくれました。

黒フサスグリ

スグリ科  スグリ属
クロスグリ、ブラック・カーラント(英名)、又はカシス(フランス名)とも表記されています。
原産はヨーロッパ北部からアジア
アメリカで松の病気を媒介する菌の宿主になると言う事から一時栽培が禁止されたことがあります。現在、禁止は解かれているようです。
また、イギリスで 第二次大戦中にオレンジの輸入ができなくなった事から、ビタミンCなどビタミン類を多く含む黒フサスグリが注目されました。

エネルギ-  63kcal
脂質     0.4g
たんぱく質  1.4g
ビタミンB1 0.05㎎
ビタミンB2 0.05㎎
ビタミンB3 0.05㎎
ビタミンB5 0.398㎎
ビタミンB6  0.066㎎
ビタミンC  181㎎
ビタミンE  1㎎
カルシウム  55㎎
鉄      1.54㎎
マグネシウム 24㎎
マンガン   0.256㎎
リン     2㎎
カリウム   322㎎
ナトリウム  2㎎
亜鉛     0.27㎎

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